Magazine

TOKI CHOI MAP

土岐市周辺のおすすめのお店やスポットを、KOYO BASEの特派員が独自にレポートしていくちょっとしたメディアです。
地元で愛される老舗から、一風変わった個性的なお店まで。さまざまなお店をご紹介していきます。きっと新しい土岐が見つかるはず。

02

本と人をつなぐ場所 喫茶わに

この場所だからこそ見つかる個性豊かなお店。飲食店。体験。土岐に来たなら、立ち寄ってもらいたい。そんなお店や場所を紹介していきます。

多治見駅から徒歩5分、ながせ商店街沿いの喫茶わに。

時計や宝石を扱っていたお店をリノベーションしてできたヒラクビルの本屋さんの隣でゆったりと営業しています。メニューには本を片手に様々なドリンクと丁寧に作られた優しいスープやお菓子。

レトロとモダンが交わう空間で、ほっと一息つける喫茶店です。

たじみDMO [ (一社)多治見市観光協会 ]の一員である田平さんは、喫茶わにがあるヒラクビルの支配人でもあり、同じくながせ商店街にある「カフェ温土」の店長としても活躍されています。ながせ商店街のアンテナとして日々人々が集まる場所で幅広く活動する田平さんの思いをお聞きしました。

商店街の変遷を残したビル

喫茶わにがあるヒラクビルは、“多治見まちづくり株式会社“(以降たじみDMO)がプロジェクトの一環として"ワタナベ時計店"だった場所をリノベーションして造られたビル。当時のお店の雰囲気を残したノスタルジーを感じさせる空間です。居心地の良い喫茶店と、一つ一つセレクトされた本を扱う雰囲気の良い書店は、遠方から来るお客さんの心をしっかりと掴んでいるようです。

 

田平さん:元々は時計と眼鏡、宝石の店が入っていたビル(ワタナベビル)でした。カジュアルな一階と、二階はそれこそ高級な宝石が一つ一つ宝石箱に入っていて応接室でお得意様と商談するような感じの。なので、階段から二階にかけては特に高級感のある赤い絨毯のまま残っているんです。意外に知られていないですが、階段のシャンデリアは眼鏡屋の商品になる前のレンズをつなぎ合わせて作ったものなんですよ。他にも眼鏡屋で視力を検査する台や椅子、専門の機器もビルの中には色々なものが残っていたので、当時の色を残したいという思いでリノベーションしていきました。

――確かに、こうしてみるとビルのいたるところに当時の面影が残っているんですね。ヒラクビルという名前はそう言った背景も含めて名付けられたのでしょうか?

田平さん:そうですね。命名して貰ったデザイナーさんと弊社代表の小口さんが話し合いを繰り返し、ビルを改装する上での思いを全部伝えていく中で“ヒラクビル”はどうですかと提案されたと聞いています。一度閉じた場所をリノベーションして、ここから何かを始めていく、ここからまた街が元気になって開かれていくという意味が込められていて、これしかないということで決まりました。

 

本屋の隣の喫茶わに。

 

元々時計、眼鏡、宝石店が入っていたワタナベビルが閉業してから数年。たじみDMOが空いたままのビルの再興プロジェクトに動き出し、田平さんはそこで意見を求められたことが喫茶わに開業の発端だと話します。

田平さん:私は最初、ビルのリノベーションに関しては社長からの相談を聞くような立ち位置でした。その時にはすでに同じ商店街内にある“カフェ温土”の店長として働いていたので、最初から私が喫茶店を運営していくということは決まってなかったですね。ビルのどういうところをリノベーションしようかとか、お店は何を入れようとか。丁度その時に駅前の工事の関係でこのままだと街に本屋がなくなってしまうのではないか、という危機感もあり、本屋を入れたらどうかという話になりました。今は本離れの傾向があるので、まずはもっと本を身近に感じてもらうために青空本屋のようなイベントを開催したんです。月一で、本と一緒にコーヒーを出して気軽に本を楽しんでもらう為に。そうしていくうちにビルに本屋を入れることが決まって、ビルの中に食事をするところも入れるという話になった時、突然私が喫茶店の運営を担当する事になりました。

 

――それはまた急なことでしたね。

田平さん:そうなんです。寝耳に水とはまさにこのこと(笑)

本屋さんとしても本を売りながら食事をしてもいいというルールを理解してもらうのは難しいことなので。だからイベントなどもやってきたこともあって私に声がかかったのかと。私自身読書が好きなこともあったのと、もっと身近に本を読む人の場所と時間を作りたいという思いがあったので引き受けることにしました。

 

本とドリンクとスープ。

喫茶わにの最大の特徴といえば隣の書店の存在。メニューを決める際には、本と食事のどちらも提供する場所だからこそ田平さんがこだわりたかったことがあると話します。

――喫茶わにのメニューの特徴はなんですか?

田平さん:季節的な提案や各国の料理をイメージしたものが多いです。私の作る料理は“世界旅行をしているみたい”だとスタッフに言われたことがあります。私自身本が好きなこともあってエッセイ集や旅行記などを読んではその国の料理を調べて作るなど、本当に様々な国の料理を作りますね。夏だからエスニック系にしようかなとか、その時ある季節の素材をアレンジして作ったりを続けているうちに気付いたら今のようなメニューの提案に決まっていきました。本を読む事でいろんな世界に行けるので、料理を通して色々な世界を感じて、さらにはそこに行ってみたいと思ってもらえたら最高だと思います。

――メインの食事メニューがスープに絞られている理由はなんですか。

田平さん:喫茶わにでは、料理やドリンクを飲んでボーっとしたり話をしたりするだけでももちろん十分楽しんで貰えますが、喫茶わにを100%楽しむなら、隣の本屋の本を片手にコーヒーを飲んだり食事をしたりすることが一番理想の形だと思います。そこで本を片手に食べられるものを考えた時にスープがベストだと。匂いがつきにくく、かつ本を汚しにくくて、味のバリエーションも出せるので。私自身、本屋さんの紙の匂いとかインクの匂いが凄く好きなので、その匂いを消さないようなメニューを考えた時にスープでなければいけなかったのかなと思います。喫茶わには飲食店として成り立つというより本屋があってこその場所なので。

今後、移り変わりもあるかもしれませんが、勿論それはそれで。本との距離がほどよく近い店でありたいなと思います。

 

――なるほど。喫茶わにの料理を含めて場所自体が本を読むことを前提に、本があることを踏まえて考えられているんですね。

田平さん:そうなんです。本を読む人が少なくなっている現状で、本屋さんを残すためには、本を買わなければいけないしそのためには本を読む必要があるんです。本を読む時間と場所を設けるためにも、喫茶わにでは時間制限を決めずにしっかりと本を読んで欲しいという思いを込めています。

 

 

 

作りたい、食べてもらいたい

 

喫茶わにで提供されるスープやデザート、ドリンクはどれも丁寧に仕上げられた手の込んだものばかり。田平さんにとって料理をすることは幼少期から日常の中に当たり前にあったと話します。

――料理を本格的にするようになった経緯はなんですか?

田平さん:料理を作りだしたきっかけは「わかったさん」「こまったさん」という料理絵本からでした。小学校の時には図書館で借りては作ってをとにかく繰り返して、作った料理は親や兄に振る舞っていました。バレンタインにはクラスメイトにガトーショコラを業者のように配り回ったりとか(笑)。なので小さい頃からキッチンに立つことが多くて料理が日常にあったんです。自分の作った料理を食べてもらって美味しいって言ってもらえる事自体が一つの評価というか、分かりやすくて嬉しかったんです。

もう一度始まる地元の人間関係

多治見出身の田平さんは学生時代から就職を通して地元の多治見を離れていました。ふとしたきっかけで戻ってきた地元の魅力を改めて感じ、多治見での再出発を決意したようです。

田平さん:元々放浪系で全国の色々な地域に住み回ったりしていて、多治見に戻って来るつもりはなかったです。昔はこの辺には何もなくて、少し買い物するにも少し遠出をしなければいけなかったりして不便に感じていたことも多かったので、一度戻ってきた時も次の就職先が決まればすぐ出て行こうと思っていました(笑)。

――それだけ地元を離れている期間があったのにも関わらず多治見に戻ることを決意したきっかけはなんだったんでしょうか?

田平さん:多治見に戻ってきた時には昔の知り合いがほとんど街を出ていていなくなっていましたが、大人になって増えた知り合いが面白い人ばかりでした。子供の頃煩わしかった地元の人間関係の濃さが大人になって帰ってきた時に面白いと感じたんです。人が面白くて、その人たちが街を作っているから街が面白くなっているように思います。良い意味で周りの人達が自分に対して肩の力を抜いて接してくれて、長く外に出ていた自分も進んで受け入れてくれるような雰囲気が心地よく感じましたね。

 

人生のテーマ「料理」「本」

――今後、喫茶わにとして、ヒラクビルとしてどうしていきたいかの目標などはありますか?

田平さん:本は色々なものにつながるツールです。本一つとっても、食はもちろん、花であったり服や陶器、様々なジャンルのものと繋がることができるんです。これからは、本を売るだけではなくて、本を介して何か繋げたり、広げたり、例えばイベントを通して本にどういった力があるのかを知ってもらうような機会を増やしていきたいなと考えています。

 

――田平さんの本に対する思いはとても大きなものなんですね。

田平さん:元々文章を組み立てたりする事が凄く好きで、本としてはもちろん文章自体が好きですね。子供の頃から図書館に通うような子で、今では出張や旅行に行けば必ず本屋さんに寄るぐらいです。本は選んだ人によってもそれぞれ違って個性が出ると思っていて、元をたどれば私は人が好きで、人を知りたいから本が好きなんじゃないかとも最近になって気づいたことです。何読んでるんですかとか結構聞いてしまうので(笑)。それもその人の考え方とかを知りたいと思うからなんじゃないかと。

同じように料理もやり続けていきたいと思っています。絵や歌で自分を表現するのと同じように、私にとっては自分の表現方法が“料理”だと思います。きっと料理をしなかったら禁断症状が出るくらい(笑)。

 

――田平さんにとっては“本”と“料理”のどちらの存在も合わせて人生のテーマだったんですね。

田平さん:そうですね。これからも本と料理をより深く繋げていくことに挑戦していきたいです。

 

----------------------------------------------------------------------

本と料理のどちらも自分の人生においては無くてはならないものだと話す田平さん。好きなことを追求する田平さんによって喫茶わには他にはない魅力的な場所になっているのではないでしょうか。本が紡ぐ世界に囲まれ、普段とはまた違った癒しのひと時を味わってみませんか。

本と人をつなぐ場所 喫茶わに

KOYO BASEからちょいっと車で12分。
〒507-0033 岐阜県多治見市本町3丁目25 ヒラクビル1F google map
TEL. 080-6956-8271
定休日
水曜日
営業時間
10:00~21:00(日曜営業)