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TOKI CHOI MAP

土岐市周辺のおすすめのお店やスポットを、KOYO BASEの特派員が独自にレポートしていくちょっとしたメディアです。
地元で愛される老舗から、一風変わった個性的なお店まで。さまざまなお店をご紹介していきます。きっと新しい土岐が見つかるはず。

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作り手の思いを繋ぐ 市之倉さかづき美術館

この場所だからこそ見つかる個性豊かなお店。飲食店。体験。土岐に来たなら、立ち寄ってもらいたい。そんなお店や場所を紹介していきます。

豊かな自然に囲まれた多治見市南端にある市之倉さかづき美術館。 ギャラリーやショップ、作陶体験ができる施設を併設しています。 美術館では、繊細な絵付けが施された盃や遊び心のある盃など約1500点を展示しており、ショップではさまざまな分野の現代作家作品を幅広く取り扱っています。 盃をテーマにやきものの魅力をより感じる事ができる美術館です。

市之倉さかづき美術館の支配人である今川さん。「盃」を切り口に陶磁器の産業観光活性化を目指しています。今川さんに美術館の展示を紹介していただきながら、市之倉の楽しみ方を聞きました。

 

盃の地、市之倉と職人の技術

――市之倉が盃で有名な理由は何ですか?

今川さん:美濃焼の産地は古くから広範囲にわたって多くの窯元が点在していました。そこで同じ商品を作っていては競合してしまうので、産品の棲み分けを行いました。市之倉は山あいの小さな集落で交通の便も良くなかったので、少ない原材料で沢山のものを作るということで盃や煎茶器、箸置きなどの小物を作ることになりました。明治中期・最盛期には120軒ほどの窯元があり、名工と呼ばれる人が10人ほど輩出されたと言われています。当時、最高水準と言われた清水焼とはまた違った志向で、精巧な染付けや素地作りの技術を極めていきました。

――最盛期の美しい盃の数々を見ていくと昔の人の職人技はかなり優れているように感じますね。

今川さん:そうですね。乳白色のガラスかと思うほどの透光性がある土の特性に加え、1㍉以下の薄さに仕上げるろくろの技、細密画のように精緻な染付。盃の下から照明を当てて、その精巧さが伝わるように展示をしています。

時代の流れで原材料や技術が変化し、現在このような製品を作ることは難しいですが、当時の市之倉が高い技術で陶磁器を作っていたということを地元の人にも知って貰いたいと思い展示しています。

――なるほど。観光客だけじゃなく地元の人への目線も考えているんですね。

今川さん:そうですね。観光のお客様はもちろんですが、地元の人が知人友人を連れて行きたい場所になれればいいなと思っています。

 

酒と盃

展示ブースには盃の歴史を伝える為、時代別・地域別に所蔵品が並べられ、明治期の市之倉の名工、加藤五輔が描いたデザイン画の資料なども展示されています。

――これだけの盃の展示をされているのは圧巻です。お酒好きの人にはたまらない場所になりますね。

今川さん:そうですね()。数ある盃の中でどの盃が一番お酒を美味しく飲めるのか、ひとつずつ試してみたいですね。古代、酒は神のものでした。それをいれる器=盃は、神と人、人と人との間を行き交う文字なき契約書といわれ、珍重されてきました。ゆえに、盃はお膳にのる器の中で一番小さいものですが、大きな意味がこめられ、ここまでエネルギーをそそぐことができるのだと思います。この小さな器に込められた陶工の想い、そしてその指先、筆先を想像しながら見ていただけたら…と思います。

 

交流の場としてのミュージアムショップ

 

広々としたミュージアムショップには、窯元の商品や作家の作品、陶磁器だけではなくガラスや木工など異素材のものまで、さまざまな商品・作品が並んでいます。

 

――陳列する窯元の商品や作家の作品などはどのようにして選ばれていますか?

今川さん:こちらから声をかける事もあれば、出品を申し込まれることもあります。出品者は、作家だけでなく窯元や工房も。素材は陶磁器だけでなくガラスや金属など、品目も器だけでなくアクセサリーや人形など、いろいろあります。棚の中は自分で展示してもらい、小さなアンテナショップを出す感覚で使ってもらえたらいいなと思っています。他の窯元さんの商品や異素材の作品を見ることで、お互いの刺激になればとも考えています。そして、作り手である出品者にとっては、ここではどういったものに需要があるのか?などお客様のリアルな反応を感じて貰い、使い手であるお客様にとっては、窯元や作家の作品に出会える場として繋げられたらと思います。

こだわりの展示ギャラリー「宙」

様々な企画展示を年間1314回ほど開催するギャラリー「宙」では、美術館の担当スタッフが意見を出し合いながら作家や窯元などを探し、お客様に提案するような思いで展示を作っていると今川さんは話します。

――声をかける作家さんや窯元さんはどのように選んでいますか?

今川さん:まずは展覧会や制作展、クラフト市などで作家や窯元探しをします。陶磁器に限らず展示をお願いしたい人がいたら声を掛けます。個展やグループ展、テーマ展示、異素材との組み合わせなど、その時々で新しい展示内容になるように心掛けています。ギャラリー内は白い空間なので、作品の印象がダイレクトに伝わります。ですから、展示も毎回悩みながら行っています(笑)ので、そんなところも見ていただきたいですね。

 

体験内容にこだわった作陶館

文化初年の開窯以来、200年以上窯の火を絶やさず焼き物を作り続けてきた美濃の名窯「幸兵衛窯」。古くは精密な染付の優品、近代は中国陶磁、現代はペルシア陶磁を取り入れた名品を生み出してきた歴史ある窯元です。さかづき美術館に隣接する「作陶館」では、幸兵衛窯独自の土や釉薬を使用した「電動ろくろ」や「絵付け」体験などができます。

今川さん:皆さん毎日食事の度にお茶碗やお皿を使うし見るし触っていると思うんですよ。でも実際にさぁ作るぞ!となると意外とできなかったりするものなんです。どのくらいの大きさだったかな?裏はどうなってたかな?と。だから一回でもいいから作る体験をするとうつわを見る目が変わるんです。あぁ、ここはこういう形だったのか…とか、焼き上がった作品を見て思ってたより小さいなぁ…そうか、焼くと縮むんだ!と気付く。そうやって体験した事を踏まえて、ギャラリーやショップで作家さんが作った作品を見る。そこで、これはどうやって作るんだろう?と思ってもらえたら、もう本当に嬉しいです。

体験のほかに、会員コースというものもあって、自分が作りたいものを相談・指導してもらいながら作り、削り、釉掛けなど、体験コースではできない多くの工程を自分でやる事ができます。もう一歩踏み込みたい方にはおススメです。

――実際に幸兵衛窯の方にお会いできる機会もあるのでしょうか。

今川さん:あります。ワークショップのような形で2カ月に1回ほど、幸兵衛窯の当主であり当館館長でもある七代加藤幸兵衛が直接指導する日を設けています。例えば、ろくろを引いて出来たものを縦に切ってみて、断面はこうなってるんだ!というのを見たり、講義を含めながらコツを教えてもらうような回もあります。

インフォメーションとしての美術館

盃の展示に加え、ギャラリーやショップ、作陶館を構える市之倉さかづき美術館は、作り手と使い手を繋げる重要な役割を担う場所だと今川さんは話します。

今川さん: 市之倉は古くから窯元の町です。今も多くの窯元が焼き物を作り続けています。お客様が市之倉に来られたときには一度美術館に寄って、窯元さんの商品や作家さんの作品を直接見て触れて、お気に入りを見つけていただきたいのです。観光案内としての“窯元散策マップ”というものがあるので、ここの窯元さんは直売してるよとか作業場を見せてくれるよとか情報を得て、散策マップ片手に窯元を訪ねてもらえたらといいなと思っています。

 

――そういった産業観光の役割を果たす“窯元散策マップ”というのは地域の中の繋がりが濃い土地ならではのように感じますね。

今川さん:そうですね。小さな町なので、自ずと協力しあって繋がりは深くなっているのかと思います。 “市之倉まちづくり実行委員会”と呼ばれる、陶磁器関係者だけでなく一般地域住民も参加してまち作りをやっていこうという会があります。そこで、地域の人にも観光のお客様にもわかりやすく情報を一元化して、多くの方に町を歩いて貰いたい、というところからマップは出来上がっていきました。

地元への貢献

――今川さんが今の職業に立たれた経緯を教えて下さい。

今川さん:私は大学で、陶芸…ではなく環境デザイン(インテリアから都市計画までさまざま)の勉強していました。大学卒業後に北海道の設計事務所に勤め、住民と交流しながら作る公園の設計やまちづくり活動の支援などをやっていました。その中で、自分の生まれ育った町に「市之倉さかづき美術館」ができることを知り、何か役に立てるかもしれないと感じ、戻って働く事になりました。

 

作り手と使い手をつなぐ場所として

今川さんは、窯元や作家の想いをお客様に伝える事が市之倉さかづき美術館の役割であり、市之倉が産地の一つとして大きな可能性を持っていると感じているようです。

 

 

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さかづき美術館の展示から陶産地の歴史を学び、ショップやギャラリーでその多様性にふれ、体験して新たな視点を持つ。そうした背景を知ったうえで町を歩いていただくと、窯元の庭先で日干しされている器たち、畑に転がるエンゴロ(窯で使う道具)、ガラス越しに見える陶工さんたちの働く姿などが興味深く、また愛おしく感じていただけるのではないでしょうか。穏やかな時間の流れる陶の里へ、訪れてみませんか?

 

 

 

作り手の思いを繋ぐ 市之倉さかづき美術館

KOYO BASEからちょいっと車で22分。
〒507-0814 岐阜県多治見市市之倉町6-30-1 google map
TEL. 0572-24-5911
定休日
火曜日・年末年始(祝日の場合、振替休館有)
営業時間
10:00~17:00(展示室入場は16:30迄)